いかえるの感想日記

本や映画を”お気に入り度”によって評価しまとめています。

科学の扉をノックする / 小川洋子

 

科学の扉をノックする (集英社文庫)

 

内容

 

宇宙のはじまりはカップからこぼれたコーヒー?
人間が豚を食べられるのは遺伝子のおかげ?
作家、小川洋子が様々な分野で活躍する科学のスペシャリスト7人にインタビュー。科学の不思議を解き明かすため、日々研究に打ち込むひとびとの真摯な姿に迫る。そこから見えてきた興味深い成果の数々とは。
ふとした疑問から巨大な謎まで、科学に関するあなたの『?』を解決する珠玉の入門書。

 

裏表紙より

 

感想

 

小川洋子が見る科学の世界に興味があり、手に取った本です。
直観は正しかった!やはり小川洋子の感性は私に合います。

 

1~3章がとくに面白くて、個人的にぐっときた部分を引用します。

 

1章 宇宙を知ることは自分を知ることーー渡部潤一国立天文台にて 

さて、宇宙から地球に届いてくるのは、光だけではない。電波、重力波ニュートリノなど目に見えないものも宇宙から降り注いでいる。

 

(中略)

 

重力波にしても、ニュートリノにしても、宇宙の探索が地下奥深くで行われているのがおもしろい。空と地下はお互い無関係にそこにあるわけではなかったのだ。また、広大な宇宙の謎が、目には見えないミクロの世界に隠されている、というのも興味深い。人間は遠くへ、遠くへと視野を広げる一方で、物質の最小単位にまで視点を凝縮させ、謎を解き明かそうともがいている。それが私には、健気で尊い姿に映る。

 

宇宙はとても大きく、さらに日々膨張しているものだと私は学びました。だけど宇宙について分かっていることは少なく、謎を解き明かすためにミクロの世界を研究しているのが現状です。マクロとミクロの世界が協力し合って謎を解き明かすなんてワクワクします。

 

「宇宙のはじまりの頃には水素しかありませんでした。この段階ではまだ地球は絶対にできないですね。地球は岩石ですから。この第一世代が水素を燃料にして燃やした灰が、窒素や、炭素や、珪素や、鉄になるんです。これらは全部お星様の中でできたものです。この星たちが爆発して欠片となり、ばら撒かれたものが第二世代、第三世代の宇宙を作り、惑星ができ、地球ができ、我々の身体もできたわけです。我々の身体の炭素や窒素は、50憶年以上前に、どこかの星でできたものなんです。しかもその星は爆発して、今はもうなくなっているんです」

 

 

2章 鉱物は大地の芸術家ーー堀秀道と鉱物化学研究所にて

今回、一番発見があったのは鉱物の世界でした。私は石には全く興味がなかったのですが、鉱物もやはり地球が生み出したものであり、それはつまり宇宙に通ずるものがあるということです。鉱物という今まで見たことのない世界を垣間見たことは、私の好奇心を大きく揺さぶりました。

 

まず、岩石と鉱物が違うというのは驚きでした。
岩石は鉱物の集合体で、鉱物は一つの単体。
鉱物を細かくしていくと原子になってしまうようなのです。

 

先生は著書の中で、鉱物は地球や宇宙を構成する固体の最小単位であり、鉱物学は宇宙という一冊の本の、鉱物というワードを調べる学問、と書いておられる。どんなに小さく割っても削っても潰しても、自分自身であり続け、孤高を守り抜く。だとすれば鉱物は、数学における素数のようなものかもしれない。

 

小川洋子さんは、オーケン石の、規則的な作りになっている結晶を見て、「自然」であることの認識が誤っていたことに気がつきます。

 

自然は偶然に支配されているのであって、規則的であることは、自然とはなじまず、人工的な、人間が操作する行為の中で生じてくるのでは、と思っていた。

 

(中略)

 

無駄なエネルギーを使わず、余分な装飾を排除し、最もシンプルな状態であろうとするのが自然のあり方で、だからこそ単純な規則性が重量な役割を果たすようになる。結晶は必然の結果なのである。このようにして自然は、本質的な美を表現している。

 

 

3章 命の源”サムシング・グレート”ーー村上和雄と山の上のホテルにて

人間が食べられるもの、食べられないもの。
鮭は食べられます。鉛筆は食べられません。誰でも分かる常識です。
だけど、食べられるものと食べられないものの線引きについて考えたことはありません。以下の引用は、そのことにはっとした部分です。

 

遺伝子の働きのおかげで、豚用のタンパク質を人間用に作り変えることができるということらしい。それが可能なのも、アミノ酸を共有しているからだろう。人間が豚でも鹿でもウニでも好き勝手に食べていられるのは、神様がタンパク質の部分を共通にしておいてくれたおかげなのだ。

 

 

それから、科学の世界からは少し離れますが、

 

遺体科学者・遠藤秀紀さんを訪ねた小川洋子さんは、遺体科学の謙虚な姿勢に心をうたれます。

遺体科学とは、人間や動物の遺体から新たな発見をする学問です。遺体の研究はすぐに取り掛かるものもあれば、保管して何年かした後に研究をするもののあります。だから、どの種類を残すか残さないかというように、遺体を選びません。何が発見につながるか分からないからです。発見は遠藤さんの生きる時代ではないかもしれません。しかし未来の発見のために遺体を残す、その姿勢が謙虚だと小川洋子さんは言います。

 

作家は自分一人で、全くゼロの状態から小説世界を作り上げる。だから時々、自分を王様だと錯覚してしまう瞬間がある。それはとても危険な状態で、王様だから何でも自分の好きなようにできるのだと浮かれてしまったら、途端に小さな脳みその壁にぶち当たり、つまらない小説しか書けなくなる。いい小説を書こうと思ったら、自分自身を越えた場所まで想像力を羽ばたかせる必要がある。王様ではなく下僕となって、物語の声にじっと耳を澄ませなければならない。

 

私が彼女の作品を好きなのは、こうした謙虚さがあるからだと再確認しました。

 

お気に入り度

★★★★