いかえるの感想日記

本や映画を”お気に入り度”によって評価しまとめています!他にも、お出かけしたことや音楽について感想を書いています。

あなたの人生の物語 / テッド・チャン

 

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

 

内容

 

わずか100ページの短編です。

突如現れた飛行物体。
エイリアンの目的は何か?
それを探るために、言語学者と物理学者を筆頭にチームが結成される。
SF小説でありながら、科学者でなく言語学者が話の鍵をにぎっている点がおもしろいです。

 

感想

 

実はSF小説を読んだのは初めてで、とても難しかったです!
私は映画を観てから、本を読んだので大丈夫でしたが、先に本を読んでいたら挫折していたかも…。

ただ話はめちゃくちゃ面白いです(つまり私の読書レベルが低いだけなのです)。

 

言語学者・ルイーズがエイリアンのヘプタポッドとコミュニケーションをとる話と、ルイーズの心に浮かんだ話が展開されます。

私は、コミュニケーションをとる過程が楽しくて、読んでいる最中にいろいろなことを思い出しました。本記事では私が読んで思ったことをただずらずら書いていくことにします。

 

「言語の発達において、習得の容易さというのは主要な圧力にはならないの。ヘプタポッドにとっては、書くことと話すことは相当に異なる文化的あるいは認知的役割を果たしていて、別個の言語を使用するほうが、同じ言語を異なった様式で使用するより理にかなっているのかもしれない

彼は考えこんだ。

「きみの言う意味はわかる。もしかすると、”それら”はわれわれの書法の様式は冗長だと考えているかもしれないな。せっかくの第二のコミュニケイション経路を埋もれたままにしていると思っているとか」

 

ヘプタポッドは、話す言葉と書く言葉が異なります。これは、明治時代、言文一致運動が起こる前の日本と同じ現象です。日本の場合は書き言葉が、話し言葉の変化する速度に追いついていないだけかもしれませんが、話し言葉と書き言葉が異なるという点において親近感を感じました。

 

ヘプタポッドの書く言葉は表義文字です。象形文字みたいな発音が分からない文字だと思います。映画では書道家が太い筆で”〇”と書いたような文字でした。本著ではこう説明しています。

 

ヘプタポッドは文を書く際に、表義文字をひとつひとつ書いていくということはしない。個々の表義文字にとらわれることなく何本もの線を引いて、文を構成していく。これに類似する高度な統合物は、以前にも書道(カリグラフィー)の意匠のなかに見たことがあり、それはアラビア語のアルファベットを採用した文字の場合に顕著に見られる。しかし、そういった意匠は、習熟したカリグラファーによる綿密な段どりが要求される。会話をつづけるのに必要な速さでそういう精妙な意匠を構成していくなど、だれにもできない。

 

ヘプタポッドの書く言語は、文字と絵の中間のようなものでないかと推測しました。おそらく抽象的な概念やイメージを伝える手段として使用しているのではないでしょうか。だとしたら、絵文字とか顔文字に近いかもしれません。いや、ヘプタポッドの文字は文章にもなるので、やっぱり絵画に近いのかな?

 

学生時代に読んだ、幸田露伴の「観画談」を思い出しました。
「観画談」のあらすじをざっくり書くと、こんな感じ。

家庭の事情から年齢が遅くして学生となった大器晩成先生(あだ名)は療養のため、不治の病も治るという噂の滝を求めて山奥に行きます。いろいろな経験を得てある一枚の絵を観て、彼は考えが変ります。
学生を辞めて、農夫となった彼を誰かが見た、という話です。

 

彼の心境に何が起こったのか分かりません。
非日常的な体験と、一枚の絵が言葉を越えて彼に何かを伝えた、ということです。

 

さてさて、

ヘプタポッドの文字を読むことは、
「観画談」の、非日常的な体験 + 一枚の絵を観ること
と同等の役割を果たすことにならないかな?

 

とぼやぼやーと思っています。そう思った理由が特にないのでこれ以上書きようがありませんが…。

 

ちなみに、本著では、”未來を知ることと自由意志の関係性”という壮大な主題があります。これについて論じることも大変興味深いのですが、そろそろ私の頭がパンクしそうなので、それはまたの機会にします。

 

最後に、

作者テッド・チャンは実は日本大好きなんじゃない?と思ったのですが、彼は中国系アメリカ人だそうで、中国の文化を知っているのであれば日本と感性が似ていてもおかしくはないですよね。少しだけ残念。

 

お気に入り度

★★★★★

文句なしの星5つです( 一一)!