いかえるの感想日記

本や映画を”お気に入り度”によって評価しまとめています。

猫を抱いて象と泳ぐ / 小川洋子

 

猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)

 

内容

 

「大きくなること、それは悲劇である」──この警句を胸に11歳の身体のまま成長を止めた少年は、からくり人形を操りチェスを指す。その名もリトル・アリョーヒン。
盤面の海に無限の可能性を見出す彼は、自分の姿を見せずに指す独自のスタイルから、いつしか“盤下の詩人”と呼ばれ奇跡のように美しい棋譜を生み出す。架空の友人インディラとミイラ、海底チェス倶楽部、白い鳩を肩に載せた少女、老婆令嬢……少年の数奇な運命を切なく描く。小川洋子の到達点を示す傑作。

 

引用元

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感想

 

このブログで度々申し上げておりますが、私、小川洋子さんの作品のファンなんですよ('◇')ゞ
そして、この「猫を抱いて像と泳ぐ」は、私にとって特別な一冊なのです。

 

もうね世界観が素晴らしい!
優しくて尊くて美しくて謙虚で健気で孤独で、泣けてきちゃうんです。

 

主人公はリトル・アリョーヒン。
この名前は、ロシアのチェス選手で、「盤上の詩人」と称えられた、アレクサンドル・アリョーヒンに由来します。


ちなみに、アレクサンドル・アリョーヒンは実在する人物です( ゚Д゚)

アレクサンドル・アレヒン - Wikipedia

 

物語は、リトル・アリョーヒンの人生をなぞらえたものとなっています。
少年の、その生き方の健気で美しいこと!
リトル・アリョーヒンはチェスが強いのですが、決して偉そうな態度になったりしません。いつだってチェスの駒の音に耳を澄ませて、一手一手慎重にチェスをさします。

 

強い相手のときはお互いにベストな一手をさすことになるので、自然と研ぎ澄まされた美しい対局となるのですが、弱い相手のときは、そうはいきません。意味のない一手をさしたり、悪手となる一手をさしたりするからです。
しかし、リトル・アリョーヒンはそんな相手だからこそ、さらに慎重に思考を重ね、美しいチェスをさそうとします。

彼はそんな少年なのです。

 

そして、彼を取り巻く周囲の人間も優しい。

 

リトル・アリョーヒンにチェスを教えた、マスター。
チェスは分からなくても、リトル・アリョーヒンを褒め称え見守ってきた祖母。
いつもリトル・アリョーヒンにぴったりの道具を作る家具職人の祖父。
長年にわたり、リトル・アリョーヒンの良きライバルであり理解者だったルーク使いの老婆令嬢。
海底チェス倶楽部でリトル・アリョーヒンを支え続けてきたミイラ。

 

「あなたに初めてチェスを教えたのがどんな人物だったか、私にはよく分かりますよ」

 

(中略)

 

あなたの先生はきっと耳のいい方ね。辛抱強くいつまでも、駒の声にじっと耳を傾にけていられる方。自分の声より駒の声を大事にできる方。あなたのチェスを見ていれば分かります

 

そうなんです、マスターはそういう人だったんです、と思わずリトル・アリョーヒンは声を上げそうになり、慌てて両手で口を覆い、唇をきつく閉じた。レバーが傾き、”リトル・アリョーヒン”の左手がテーブルの縁でコツンと音を立てた。一瞬、ミイラのハッとする気配が暗闇の中にも伝わってきたが、老婆令嬢は平然とポーンをe3進めた。

 

マスターはいつまででも待つことができる人なんです。急かしたりうんざりしたりしないんです。こんな僕の数歩先に立って、じっと待って、道しるべになってくれる人。俺はここにいるぞと決して叫ばない人。自分の気持は全部自分の中に押しとどめて、それがあふれ出ないようにおやつを一杯食べて、それで死んじゃった人……。リトル・アリョーヒンは産声を上げなかった時の唇をよみがえらせるようにして、言葉を呑み込んだ。

 

「人形にだってやはり、最初にチェスを教えてくれた人はいるはずよね」

 

相変わらず老婆令嬢は落ち着いていた。リトル・アリョーヒンはズボンのポケットに右手を突っ込み、ポーンの駒袋を握り締め、気持が鎮まるのを待った。チェスをするたび、盤上にマスターの面影が映し出されていたなんて、自分の指にマスターの刻んでくれた指紋が残っているなんて、どうして今まで気がつかなかったのだろうと彼は思った。甘い匂いに包まれた回送バスの中でマスターにチェスを教えてもらえた幸運を、神様に感謝した。

 

「できれば私も、あなたの先生のような方にチェスを教わりたかった。あなたのチェスは、相手にそう思わせるようなチェスね」

 

このシーンめちゃくちゃ好き。老婆令嬢の素晴らしい洞察力と、マスターを尊ぶリトル・アリョーヒンの思い。

 

尊いよ~~~( 一一)

 

そして、この老婆令嬢。小説の後半で呆けてしまうんです。
チェスの指し方も、駒の役割も忘れてしまった老婆令嬢。
彼女が”リトル・アリョーヒン”の前に来たとき、リトル・アリョーヒンは対局者の前に初めて姿を現しチェスを教えるのです。

 かつて、老婆令嬢が言った、「自分の声より駒の声を大事にする」方法でチェスを教えるのです。

 

と う と い !!!( ゚Д゚)( ゚Д゚)( ゚Д゚)

 

他にも、ぐっとくるポイントはいくつかあります。
海底チェス倶楽部で別れた後のミイラとか、マスターとの戦いの日々や賭けチェスから学んだこととか。

 

何から何まで、この小説は尊いのです…( 一一)

 

読むたびに謙虚であろうと思い知らされます。

 

お気に入り度

 

★★★★★