怒り
内容
『横道世之介』『さよなら渓谷』などの原作者・吉田修一のミステリー小説を、『悪人』でタッグを組んだ李相日監督が映画化。現場に「怒」という血文字が残った未解決殺人事件から1年後の千葉、東京、沖縄を舞台に三つのストーリーが紡がれる群像劇で、前歴不詳の3人の男と出会った人々がその正体をめぐり、疑念と信頼のはざまで揺れる様子を描く。出演には渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、宮崎あおい、妻夫木聡など日本映画界を代表する豪華キャストが集結。
シネマトゥディ より
感想
キャストが本当に豪華でした!そのため3つのストーリー、どれも濃密に仕上がっています。
森山未來、松山ケンイチ、綾野剛の、つかみどころがないけど何か理由がありそうだと思わせる奥行きのある演技もよかったし、宮崎あおいの少しアホっぽい女の子の演技もはまっていたし、妻夫木聡の内に秘める野獣感もよかった。
だけどもったいない。
この役者勢だからこの完成度になるのは当たり前。そして小説も未読ではありますが、映画を観るかぎりでは、良作だと思います。
だから、ただ小説を映画化しただけなんじゃないの?という思いが拭えず、もったいないなと感じてしまいました。(ネット情報では、映画は原作をアレンジをしているところもあるようですが、成功しているようには思えません)
この作品で一番伝えたかったのは「怒り」という感情でしょう。映画の中で様々な形の怒りを描いています。
愛するものを信じられなかった怒り、信じていたのに裏切られてしまったことへの怒り、犯人が殺害現場に残していった「怒」というメッセージ。
それはどれもいい結末に向かわず、気持ちの置き場所が分からなくてモヤモヤとした後味の悪さを産み出しています。
中でも犯人の「怒り」が私には一番興味深かったです。犯人は恐らくとても小心者で些細な事象にも敏感に感じ取り行動に起こしてしまう性格です。社会的地位の低さに劣等感を持っていて、他人の少しの親切も蔑まれたと受け取ってしまいます。そんな人間が現場に残していた「怒」にはどんな意味があるのか。殺人の動機は衝動的なものなので、殺害した夫婦に対する怒りではありません。
それは今まで自分を貶めてきた社会へ対する怒り。
自分にはもっと上階級に行ける実力がある、だから自分がこんな低い地位にいるのは社会が間違っているせいだ。
犯人の思考回路はそういったところではないかと察します。ネタバレ回避のため役者の名前は出しませんが、犯人役の方がすごいいい演技していました。
書いているうちにいい映画だったな、と思えてきたのですが(笑)、なんにせよ上映時間が長い!ストーリー展開が3つの独立した物語を並行させる、という単純なものだったからそう感じたのかもしれません。
お気に入り度
本当は星3.5くらいだけど、きりがいいので3にします!
★★★